一橋大学を卒業後、興銀に入行。ハーバード大学に留学し、28歳でMBAを取得。楽天の設立から、わずか3年で株式を上場。2012年には「新経済連盟(注1)(以下、新経連)」の代表理事に就任した三木谷氏。今回の取材中、その華麗なキャリアからは意外な言葉が飛び出した。「やっぱり気合いと根性は重要ですよ」。はたして、その真意はなにか。経営者がもつべき視点、世界で勝つためのポイント、新経連の活動などをまじえて、同氏の経営術にせまった。
(注1)新経済連盟:楽天やサイバーエージェントなど、eビジネス・ITビジネスを行う企業群が中心として参加する経済団体(一般社団法人)。政策提言などを通じて、「イノベーション」「アントレプレナーシップ」「グローバリゼーション」の3つを軸にあらゆる産業分野での成長戦略の実現、公正な競争環境の実現などを目指している。
―楽天の国内グループサービスの年間流通総額が4兆円を超えました。1997年の設立から、なぜ短期間でこれほどの成長を遂げたのですか。
三木谷:インターネットの可能性を真剣に信じていたからでしょうね。つねに私たちは世の中の1歩先、2歩先を見すえて商売をしてきました。つまり、「他社がこうやったからウチはこうやろう」といった現状追随型じゃない。「そもそもどういうことなんだ?」と変化する環境を想定しながら、ビジネスモデルをゼロベースで構築してきたのです。関西弁でいうと、「ようするにどうやねん?」ということですね。
―本質を考えぬいた結果、インターネット上にショッピングモールをつくったと。
三木谷:「kobo」も同じですよ。国内ではAmazonより先に電子書籍を販売したのですが、当初「日本では電子書籍は普及しない」と否定された。これは15年前に聞いた話だなぁと(笑)。創業時、「ネットショッピングなんて普及しない」と、さんざん酷評を受けましたから。日本人は、ものごとを否定的にとらえる傾向が強いんですよ。できない理由、ならない理屈を考える。そんなことに頭を使っても、まったく意味はありません。ですから、いまの位置から数歩下がって、世の中でなにが起こるか俯瞰して考えるべきです。スキーのように、遠くを眺めながら足元も注意して見るわけです。
―もう少し具体的に教えてください。
三木谷:たとえば、100年後に紙の本があると思いますか? では30年後、10年後はどうなのか?10年後の未来を3年後に前倒す方法はないのか? そんな風に逆算して考えています。
―約15年前、大手企業が運営していたショッピングモールはことごとく失敗しました。なぜ楽天だけが成功したのでしょう。
三木谷:まず前提として、ビジネスモデルとオペレーションが違いました。そのうえで最大の理由は、ネバーギブアップの精神があったからです。大企業が失敗したら、「すみません。ちょっと早すぎました」とか、できなかった理由を考えればいい。でもベンチャーは、失敗が即倒産につながります。だから、「なにがなんでも成功させる」という経営者の気迫が違う。やっぱり、そういう気合いと根性が重要ですよ。先日、新経連が「新経済サミット(注2)」というシンポジウムを開催したとき、多くの経営者が同じような経験を話していました。ほとんどのベンチャーは、最初か2回目の事業で大失敗している。そこからネバーギブアップの精神で這いあがってきたんです
(注2)新経済サミット:2013年4月に開催された新経連主催の国際的シンポジウム。新経連理事をはじめとした国内の経営者だけでなく、アンディー・ルービン氏(Google 上級副社長)、ジャック・ドーシー氏(Square共同創業者・CEO/Twitter 共同創業者)、ベン・シルバーマン氏(Pinterest 共同創業者・CEO)、ニクラス・ゼンストローム氏(Atomico CEO/ Skype 共同創業者)など、そうそうたるメンバーが講演や討議を行った。
―御社も創業期は資金繰りに苦労したそうですね。
三木谷:ええ。超人的な綱渡りによって、なんとか生き残りました。ホントに気合いと根性は重要ですよ。資金繰りがまわってギブアップしなければ、いつか成功しますから。
楽天グループは2005年のアメリカ進出を皮切りに、積極的な海外展開を進めています。世界で勝つためのポイントを教えてください。
三木谷:企業文化をグローバルに広めることです。楽天では、これを「ミッション」「プラクティス」「バリュー」という枠組みで考えています。つまり、「私たちはなにをやりたいのか?」ということ。たとえば、画一的なスーパーマーケットをつくるのではなく、多彩なショッピング環境を世の中に広めていくこと。もっとわかりやすい次元でいえば、私たちは純粋に店舗が好きだし、成功するとうれしい。実際、そんな企業文化が世界でも支持されています。
―そこがアメリカ型のショッピングサイトと違うわけですね。
三木谷:ええ。インターフェースもビジネスモデルもユニークですが、ショッピングに対する哲学が違います。私たちのバックグラウンドは、町の商店街をインターネット上に復活させること。多彩な商業施設をバーチャルにつくり、楽しいショッピング体験を追求しています。一方、アメリカ型のショッピングサイトは画一的なショッピングサービスを提供する巨大な自動販売機。あくまで出店者は仕入れ手段と考え、消費者の利便性だけを追求する傾向が強いのです。
本格的に海外進出する前に組織をグローバル化すべきなのか
―そのほかに、グローバル企業として重要なことはありますか。
三木谷:ITのプラットフォームを統一することです。これまで、私たちはいろんな企業を買収してきました。しかし、買収先の企業は独自のシステムで動いているので、統一しなければいけません。これは単に技術力の問題じゃない。組織自体が国際化していないと、なかなかできないんですよ。社内公用語の英語化を含めて、ここが肝になります。
―日本企業がグローバルカンパニーに脱皮するためには、社内公用語を英語にしたほうがいいのでしょうか。
三木谷:そう思います。基本的に日本人は優秀ですが、世界には70億人以上の人材がいます。そこからベスト&ブライテストを集めなければ、世界では勝てません。たとえばNIH(注1)には、白人のアメリカ人がほとんどいません。ヒスパニック、チャイニーズ、ジャパニーズなど、世界中から優秀な人材を集めています。当社の場合、最近入社したエンジニアの約70%が外国人。相手が世界選抜なら、こちらも世界選抜でいかなきゃダメですよ。ただし、単にスーパースターを獲得すればいいわけじゃない。日本企業の風土に合う人でなければ、どんなに優秀でも能力が発揮できなくなります。
―中小・ベンチャー企業の場合、本格的に海外進出する前に組織をグローバル化すべきですか。
三木谷:原則的には、早い段階で視野に入れたほうがいいですね。日本語だけを想定したITのプラットフォームを拡張するのは、あとで大変なんですよ。ただし、これは戦略の問題です。楽天の場合、あえて最初は国内市場だけにフォーカスしてきました。Amazonが入ってこようが、Googleが入ってこようが、崩れない土壌をつくるためです。
―三木谷さんは新経連の代表理事として、積極的に政策を提言しています。中小・ベンチャー企業が新経連に加入するメリットはありますか。
三木谷:私たち新経連は、公正な競争環境の実現を求めています。ですから、理不尽な法律や行政指導があれば、力を合わせてロビー活動をする。また、政府の方針も含めて、最新の情報を得やすくなるでしょう。そして本丸は、規制緩和。わが国の成長に必要不可欠であり、大きなビジネスチャンスを生み出します。たとえば医薬品のネット販売の問題に象徴されるように、日本は書面・対面原則が強い。そのような規制が遠隔教育・医療といった新しいイノベーションを阻害しているんです。一方、アメリカは電子署名ですべてのファイリングをすませようとしています。いまや論点の中心は、どう効率的にやるかということ。金融やITだけでなく、そういった政府の姿勢が新しい産業を生み出すわけです。
―日本では、なかなか規制緩和が進みません。
三木谷:むしろ、新技術から既得権益を守ろうと民間側も躍起になっています。たとえば、テレビ局各社がスマートテレビ(注2)を阻止しようとしている。どんどん江戸時代の鎖国のような状態に近づいていますよ。いまインターネットで世界が陸続きになろうとしているなかで、日本だけが取り残されている。旧来型の大企業と官僚組織には、もはや期待できません。この国をリードして切り拓いていくのは、中小・ベンチャー企業ですよ。
(注2)スマートテレビ:イ ンターネットを利用できる多機能型テレビのこと。2013年4月に発売されたパナソニックのスマートテレビについて、民放各社がテレビCMの放映を拒否している。
―業績低迷に悩んでいる経営者に対して、アドバイスをお願いします。
三木谷:大きくわけて、方法は3つあると思います。1つめは「やめる」。つまり、既存事業をやめて別の事業に転換する。あるいは、縮小しながら転換することです。2つめは「改善する」。伸び悩みの原因は差別化できないことなのか、市場のポテンシャルが小さいのか。状況によって、改善の打ち手が変わってきます。3つめは「場所を変える」。売上低迷の理由は、日本というマーケットに適していないからかもしれない。ほかの新興国でビジネスをすれば、ブレイクするかもしれません。そして、この3つに共通して必要なのは、俯瞰で考えること。課題に近づいたり遠ざかったりしながら、直感と論理を組み合わせる。「ようするにどうやねん?」と自問自答を繰り返し、本質を見極めてください。